この記事について
下北沢にもゆかりのあるバンド・サニーデイ・サービスのドキュメンタリー映画『ドキュメント サニーデイ・サービス』が7/7より公開。
本作は2023年9/15〜下北沢映画祭でも上映が予定されている。
この記事では本作の魅力やバンドについての簡単な紹介、感想などを記載。
また2023年8月8日・渋谷シネクイントでの上映後に行われた曽我部恵一によるライブイベントの模様についてもレポートする。
鑑賞のきっかけ-サニーデイ・サービスというバンド
サニーデイ・サービスは、僕が学生の時に大好きだったバンド。
曽我部恵一の出演するライブや、再結成後の演奏は何度か観たことがある。
バンドのドキュメンタリー映画ってあまり興味が湧かないのだけど、本作に関するレビューをたまたま読むうちに「もっとサニーデイ・サービスというバンドについて知っておきたい」と思った。
「丸山晴茂とは何者だったんだろう?」そんなことも知りたい気持ちに駆られた。
サニーデイ・サービスは一度の解散、数度のメンバー構成の変遷を経たバンドである。
1992年に結成、デビュー後の主な時期を曽我部恵一(Gt.Vo)、田中貴(ba)、丸山晴茂(Dr)の三人で活動。
7枚のアルバムを発売し2000年に解散。
2008年に再結成を果たすが、丸山は2018年に死去。
現在は大工原幹雄を後任ドラマーとして迎え、活動を続けている。
映画の内容について
映画の冒頭は曽我部・田中・大久原による「コンビニのコーヒー」の演奏シーンから始まる。
ソリッドな演奏にあわせ、メンバー紹介・バンド紹介的に明朝体のテロップが載っていく。
曽我部によるシャウト、アウトロの激しく、ルーズな音程で掻き鳴らすギターソロ。
「ナンバーガールの記録映像集みたいやな!」とも思いつつ、この作品の方向性を少しずつ察していく。
その一方で思うことは、「サニーデイってこんなバンドだったっけ?」「サニーデイらしい曲ってなんだ?」ということ。
解散後の曽我部は自身のソロだけでなく、曽我部恵一B A N D、曽我部恵一ランデヴーバンドなど様々な形態で活動。
さらにはレーベル、レコードショップ、飲食店など幅広く手掛け、プロデュース力の高さや表現スタイルのこだわりも強く感じさせる。
その彼がサニーデイに求めるものはなんなのか−
このバンドでないとできない音楽、出せない音へのこだわりなど、ソロや別バンドを経た曽我部ならではの考えが本作を通して少しずつ見えてくる。
「この映画はローズレコードの30周年を記念して始まった企画」と上映後のイベントで曽我部は語っていた。
バンドの変遷から現在のサニーデイの様子、ライブでの表現を中心に構成するのが当初の想定だったのだろう。
しかしコロナの蔓延で音楽界をはじめとするあらゆる状況が一変。
その異様な状況や、それがもたらす曽我部の行動の変化も本作は鋭く捉え、記録映像的な役割も果たす作品となっている。
ライブ開催が難しくなる2020年、曽我部は自身がオーナーである下北沢のレコードショップ兼カフェバー「CITY COUNTRY CITY」を休業させ、同じく下北沢にカレー店「八月」をオープンさせる。
この時期の曽我部の活動−変化していく環境を受け入れ適応し、その中でも自分のできることを必死に探していくような姿は強く興味を惹くもので、個人的にはまたサニーデイや曽我部の音楽に関心を持つきっかけとなった出来事だ。
本作がサニーデイの音楽活動に加え、期せずしてこうした状況もインサートしていくところは、曽我部の人物像を追う作品として深みを増すものとなっている。
「この状況でライブをするのはどうなのかというスタッフもいるし、難しいところですよねー」と話す曽我部の語り口は、ロックバンドのフロントマンというよりショップの店長のようでもあった。
自粛ムードで音楽活動ができなかった曽我部が、自身の店で自らカレーを作り振る舞う様子が作品中でも描かられている。
・バンドの成長、解散、そして〜
もちろんバンドの出会いや音楽性の移り変わりについても、アルバムや作品紹介とともに時系列で語られていく。
高校時代の曽我部と田中、なかなか周囲に趣味が合う人間がいなかった者どうしの出会い。
上京後のバンドの結成。(当初曽我部と田中は別々にバンドをやっていた)
初期のバンドは「マンチェ時代」と作中で言われるような、ストーンローゼス的なギターロック&ヘロヘロボーカルの方向性。
曽我部は「ジョン・スクワイヤ役(田中談)」で、ボーカルが別にいる編成。
デビュー後ドラムの片山氏、キーボードの児玉氏が脱退。
SUGIURUMNがElectric Glass Balloonでともに活動していた丸山を紹介し、曽我部・田中・丸山の3人体制となる。(この参加経緯は知らなかった)
リアルタイムで追っていたファンにとっては当たり前の認識なのかも知れないが、バンドの活動スタイルは想像していたよりパンク。丸山自身が「俺たちは海賊のように戦っていた、体制に歯向かっていつもそれに勝っていた」」と語るように、常に常識や当たり前に挑戦していく姿勢も感じられる。
そんな当時のスタイル、アルバムをはじめとする楽曲紹介と過去・現在のライブや状況が織り交ぜられ、観客はバンドやメンバーの人生を少しずつ理解していく。
現在の姿からも最も感じるのは、そのD I Y精神。
困難な状況や大勢の制約がありつつも、「とにかく自分ができることをやろう」「(人から指図されず)やりたいことをやるために自分の力でやろう」という姿勢はすごく魅力的だし、これからの日本、地域ビジネスにとっても重要な考え方だと思う。
・田中貴というバンドマン
ラーメンを愛し、かつビジネスにし過ぎない田中氏のコンテンツへの姿勢もある意味今の時代に大切な視点を表したものと思える。
決して演奏レベルが高いわけでは言えず、演奏しているのを見ても「休日のおじさん」という感が否めない。
しかしバンドの重要なファクターとして、何よりサニーデイ・サービスを愛する人間としての彼の姿は、ある意味このバンドの根幹と言えるのかもしれない。
解散前には、手厳しい音楽評論家に、「曽我部は亡霊のような二人を切って、自身の活動を極めた方がいい」といったコメントもしていたと記憶している。
だがこの作品を観て、サニーデイ・サービスというバンドは田中や丸山をはじめとするバンド・人間そのものなのだとはっきりわかるし、曽我部もそんな化学反応を求めて、再結成や大久原の加入という道を選んだのだろう。
上映後ミニライブ レポート
上映は19:15-、ライブが始まったのは21時40分頃から。
盛りだくさんのライブ映像を含む映画とライブで相当お腹いっぱいのイベントになった。
ライブセッティングに少々時間がかかったようで、カンパニー松尾監督が「つなぎ」として話す場面も。
登場した曽我部氏は、まず映画制作の経緯を語った。
「自主制作でC Dを作って30周年。その区切りとしてドキュメンタリー映画の制作が始まった」
「最初はザ・バンドの『ラスト・ワルツ』(※同バンドの解散ライブを記録した映画)がいいなあと思ってたんですけどそんな風にはならずに、普通に僕らがダラダラ過ごしている日々を監督が撮ってくれて。それって何か素敵なんじゃないかという監督の思いもあるんじゃないかと思うんですけど」と、彼らの日常やありのままの取り組みを描いた映画への自負を語った。
1.八月の息子
「映画の中には出てこないんですけど」と始めたー曲目は『八月の息子』(アルバム・『M U G E N』収録)。
曽我部氏自身の生まれ月であり、下北沢で営むカレー店「八月」の由来でもある、縁の深い一曲。
「近づくほど遠ざかる夏」というフレーズが沁みる。
映画作品中はエモーショナルな演奏が光っていたが、個人的にはこうしたゆったりとした楽曲や優しい曽我部氏の歌声が大好きだ。
2.若者たち
続いて演奏されたのは、映画中でもバンドにとっての転換点として描かれる、『若者たち』(同名アルバム収録)。
松尾監督も昔よく聴いていた曲だという。
バンドでの演奏とはまた違って、アコギが心地良く刻まれる好演奏。
3.24時のブルース
「夏だからサマーソルジャーとかやろうかと思ったんですけど、あの映画の後でやるとケガしそうなので…」と弾き始めたのは『24時のブルース』(アルバム・『24時』収録)。
全体的に夜の雰囲気が強く、やや癖もあるアルバムからの一曲。
夜の映画館で聴くのにある意味合っていたかも。
4.One Day
最後に演奏された曲は、曽我部氏自身「僕が一番好きな曲かもしれないです」と紹介する『One Day』。
思い出した。復活後に観たこの曲のP V。
これまでサニーデイといえば自分にとっては「過去のバンド」で、Youtubeで観る彼らのP Vなどは画質や音質が悪いものも多く(多分元々の素材もだし、V H Sの素材をネットにアップしたりが繰り返され超絶劣化している)、とってもローファイなイメージだった。
それがこんな美しい映像と音で、P Vが流れている。
サニーデイ・サービスが確かに現在に、目の前に存在するバンドなのだと実感した瞬間だった。
再結成の時の想いも一緒に蘇る、素晴らしい楽曲選定だったと思う。
演奏終了後にはフォトセッションも。
普通のライブ演奏で撮影タイムがあるのは珍しいので、ここぞとばかりに撮影笑
曽我部氏自身も「まだ撮るの?笑」と驚いていた様子も。
・上映後の様子
シネクイントでは会場前にバンド時代の写真など、秘蔵のグッズが並べられ、観客の目を惹いていた。ちなみにそちらも撮影O Kでした。
展示された歌詞カードなどしばらく眺めていたら、ギターを抱えた曽我部氏が観客と一緒にエレベーターに乗って帰るところに遭遇。
駐車場のクローズが近いようで焦っていたが、芸能人ぽくない自然な姿にまた好感を持った。
・作品を観終わって。
結局のところ、丸山やメンバーの人物像がはっきりと見えることはなかった。
映画を観る前は、自伝的作品なんだろうと想像していた。
曽我部をはじめとするメンバーの生い立ち、苦難、それを乗り越えた現在-
そんな人のドラマを観られたら、と思っていた。
実際の作品は少し違った趣旨で、メンバーの人となりにはそれほど言及されていない。
当時のバンドの様子は関係者の証言を中心に語られるが、その真偽や語られる内容について本人のコメントを取るようなことはされない。
過去の映像は出てくるものの、メンバー3人が話ている様子はほぼない。
徹底されているのは、バンドの変遷を当時(そして現在)のライブ映像を核にして語られていること。
人がどう言うかなんてどうでもいい、目の前のライブこそが表現の全てで、最も強い事実だ、と言われているようだった。
それはかつて、「ライブは下手だからやりたくない」と言っていた若者たちが、成熟して獲得した力でもある。
映画もバンドそのものを生き物、主人公として捉えたような作品で、ますます曽我部や田中の今後の人生に興味が持たれた。
サニーデイのライブや曽我部氏のお店も、また行ってみようかなあ。
・最後に、僕の好きな曲やはじめての人にも聴いてほしいアルバムを紹介しておきます。
手早く、名曲を一通り聴きたい方にはこちらをオススメ↓
サニーデイ・サービス BEST 1995-2018
アルバム『MUGEN』
ミニライブ演奏曲『八月の息子』をはじめ、
『スロウライダー』など良作が揃う。
サニーデイ・サービス(アルバム)
自身のバンド名を冠した4枚目のアルバム。
1曲目、baby blueは必聴の一曲。
アルバム『Sunny』
再結成後後2作目のアルバム。
記事で紹介する『One Day』も収録された作品
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ドキュメントサニーデイサービスの上映会に参加、レポート。
— choose! SHIMOKITA LIFE (@ShimokitaL) September 2, 2023
ささっと感想書こうと思ったら5,000字近い大レポートになってました…
上映会後行われたミニライブのセトリも記載。#サニーデイ#曽我部恵一#セトリ#映画感想#ライブレポート#シネクイント https://t.co/iP3K3NGxrc