タナソウ炎上に思う、音楽メディアの「終わった」感

タナソウの炎上状態について簡単にまとめ

音楽評論家の田中宗一郎氏が、自身のX(旧Twitter)で過去の万引き行為について投稿し、炎上している。レコードを万引きした経験を「武勇伝」のように語り、その内容が「犯罪自慢」ともとれるとして批判の声が殺到。「おじいちゃん!万引きは美談ではなく犯罪ですよ!」といった厳しい意見が寄せられている。

田中氏は音楽雑誌『snoozer』や『rockin’on』の編集長を務めた経験も持つ人物で、今回の発言は彼の社会的影響力からも大きな波紋を広げている。

https://twitter.com/soichiro_tanaka/status/1863094395547062647


この手の炎上が起きる度、「なぜこの類の人たちは謝るということができないのか?」と思うが、タナソウの場合は悪いと思ってないから謝らないのだとはっきり言える。
有名なKID Aのレビューで書いてたのとは違って、「助けて。」なんてきっと思ってないよ!
(助けてってなってるのはレコード店と、自分も厨二だった頃を思い出してるかつてのファン)

https://twitter.com/soichiro_tanaka/status/1217760491340091392


露悪文化とタナソウの根にある”ロック精神”

タナソーは過去に出演した音声メディアで、ポリコレとメディア表現のバランスやキャンセルカルチャーへの違和感を語っていた。
https://creators.spotify.com/pod/kiku-cinra/episodes/2—CINRA-e1uh6ku

その中で言っていたことを一部抜粋。

「俺のアイデンティティはヤクザ。間違っている人間」
「間違ってるけど昨日より良くありたいと努力している人間」
「中年男性がハラスメント的な発言をわざとやって怒られるという行為があるが、それも僕はやっている。ヤクザだから」
「罪を抱えていない人は現代社会にはいない。飢餓や難民への責任。正しい人がいるという感覚自体がおかしい、だから僕は間違った人間でいる」

「良く言えるな〜」と思う部分は節々にあるにしろ、彼が意識的にやっていることは間違いないし、一般倫理・社会的な「あたりまえ」価値観への意識的な反抗行為であることが見てとれる。

勘違いだから痛々しい

そして、それを本人はリベラルであることとして誇りをもってるし、批判されるのも自身が左派だから(非左派から)攻撃されるのだと思ってる。
この年代、特にメディアにはよくこういう考えをする人間は多く、しばしばネット世代との摩擦を起こしているのも見かける。
「レコードが死ぬほど欲しくて万引きした経験のない同世代の連中は基本的に信用してません」と自分でも言ってるから、その選民意識もハンパない。

https://twitter.com/soichiro_tanaka/status/1863097004337016879

再結成で話題のOasisをはじめ、2000年以前のロックスターにはしばしば軽犯罪やドラッグの使用について(誇張も含めて)発言することがあった。
グローバルではポリコレ、岡田斗司夫氏の言うところでは「ホワイト社会」が拡大して久しい現代で、これらの発言が「不適切」とされうることは言うまでもない。

ただ今回タナソウの発言を見た多くの人が感じている違和感は、「いや、あんたロックスターでもアーティストでもなんでもないやん」ということだろう。
社会批判の主体として、メディアはかつて代表的な働きを見せてきた。
しかしほとんどの人にとってもはやメディアはそんな精神性の強さや権威を感じられるものではないし、政治・権力批判ならまだしも万引きという善良な一般市民への攻撃を正当化する理由はどこにもない。

ステークホルダーへの致命的な配慮不足

最も問題なのは、音楽メディアにとって一大クライアントであるレーベルの商品やステークホルダーを軽んじる発言であること。
これは「昔のこととはいえ違法は違法」「いい歳して犯罪自慢なんてダセえ」といった批判よりも重たい意味をもつ。

音楽メディアにとっての重要なステークホルダーは、まず音楽レーベル・パブリッシャー。そして音楽メディアの販売や配信を行うショップ。
雑誌を販売してくれる書店や小売店も含めて、よりによって「万引き」というキーワードにいい顔をする者はいないだろう。

なんにでも批判がされてしまうSNS・ポリコレ・ホワイト社会といった背景を除いて考えても、このビジネスや市場への意識の低さは致命的である。
「そりゃ音楽雑誌も廃れるわ」と思われて仕方がない。

とっくに迎えていたターニングポイント

過去のいじめ問題で五輪の大舞台を降ろされた小山田圭吾は「過去の悪業にぶん殴られた」代表的な例で、今回のタナソウ炎上とも関連してまた話題に挙がることも多くなっている。しかし見方を変えればこれは「過去のメディアにぶん殴られた」とも言える。
小山田は後日文春オンラインの取材で、当時の発言(いじめをしたこと)は事実でないと言っている。彼の発言は引き出させたのは音楽メディア(もっと具体的に言うと山崎洋一郎)だったという側面がある。
小山田は同取材において、『ロッキング・オン・ジャパン』では原稿の内容を事前にチェックできない約束になっていた、と語っている。
https://bunshun.jp/articles/-/71997?page=3#goog_rewarded

当時のサブカルメディアの露悪趣味、倫理性の欠如は「今となっては問題とされること」で片づけられることも多いが、未だに今回のタナソウのような発言が出ることからも、メディアは現代の社会と自身が抱える問題にきちんと向き合えてこなかった、と考えるのが妥当であろう。

”あの人”もオススメの一冊を紹介

なお小山田の事件について、実際のところや周辺で起きたことについては以下の書が詳しい。
『小山田圭吾 炎上の「嘘」 東京五輪騒動の知られざる真相』(Amazon・Kindle)
このブログではお馴染み、かの吉田豪氏も配信番組の企画でヴィレバンで購入していた話題作である。(著者に音楽知識がないからこそ客観的だし面白いともコメント)
ロッキング・オンを中心とする、音楽メディアの問題点も浮き彫りになった良著です。


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